日中交流振興協会編集・発行
TOP2007年第3期インタビュー
セイコーウォッチ株式会社服部真二社長インタビュー
「革新と洗練」をキーワードに 日本の美意識を凝縮した時計作り目指す

Q:近年、中国市場において、セイコーブランドの中・高価格帯を中心とした積極的な販売活動が功を奏し、着実に売上げを伸ばしていますね。セイコーが中国ビジネスを開始したのはいつ頃からですか?

服部:北京事務所を1994年に開設したのを機に本格的に中国市場に参入しました。2003年には上海にも事務所を開設し、中国各地におけるセイコーブランドの時計の販売や新規店舗の開拓を行っています。当社と中国との関わりは古く、じつは1895年にすでに掛け時計を輸出しているんです。1913年には、海外販路拡張のため上海に「服部洋行」という出張所を開設しています。それから少し時間が空きますが、1939年には広東にも出張所を作っています。さらに1943年6には、上海に掛け時計および目覚まし時計の製造工場を設立しています。従業員は現地採用を含め約100名でした。当社の創業者である服部金太郎は、1905年、他社に先駆け上海と香港に拠点を持つ謙信洋行というドイツ商社とセイコー時計、類の販売代理店契約を結ぶなど、常に人より一歩先んじたビジネス感覚で海外市場の拡大に努めたのです。創業当初から中国は当社にとって重要拠点だったのです。1980年から82年にかけては中央電視台でテレビCMを流したこともありますし、人民日報に15段の企業広告を掲載したこともあります。

Q:海外戦略を含めて「革新と洗練」をキーワードに、積極的にセイコーのブランド価値向上に努めています。そしてこのキーワードの「革新」を象徴するのが、スプリングドライブ(Spring Drive)というセイコー独自の時計機構ですね。

服部:当社は、1969年、世界初のクオーツ時計を商品化しました。それから30年近くを経て誕生したのがスプリングドライブです。手巻きの機械式時計でありながらクオーツ時計並みの精度を実現しています。日差±1秒以内、月差±15秒以内という手巻き式腕時計としては世界最高レベルの精度です。当社はもともと機械式時計の製造を行っていましたが、より精度を高めるためクオーツ時計を開発しました。しかし、クオーツ時計は電池交換が必要です。この電池交換を不要にしたのが、当社のキネティック(KINETIC)という自動巻発電の腕時計です。クオーツ時計の電池部分を発電機と第2次電池が代替するというシステムですね。スプリングドライブには電池や充電池は搭載されていませんが、手巻きのゼンマイを利用して電気エネルギーを供給、これで運針の速度を制御します。スプリングドライブは、精密機械工学と電子工学が融合した機械メカトロニクスです。自動車でいうならばハイブリッド車ともいえることができます。

誰にも真似できないオンリーワン技術

Q:この技術はスイスの時計メーカーも挑戦を試みましたが、つに成し得なかったと聞きますが?

服部:完成までに20数年を要しました。スプリングドライブは歯車に連動したローターに微弱な電流が生まれます。ローターで得られる電力はきわめて小さく、この微弱な電力で駆動できるクオーツ回路を開発するために、途中中断もありましたが、いくつもの技術的ハードルをクリアしなければなりませんでした。結局スプリングドライブの元になるムーブメントが企画されてから20年以上の歳月を費やしました。このスプリングドライブを作れるのは世界でもセイコーだけです。このスプリングドライブを作れるのは世界でもセイコーだけです。 組み立てには非常に綿密な手作業によって行われます。そのため、当社でもスプリングドライブを組み立てられるのは、一部の卓越した技術を持った職人に限られているのです。部品製造から組み立てまですべて手作りの世界なので、年間2万個弱ほどし作ることができません。スプリングドライブはスイスのメーカーもずっと関心を持っていて、過去、開発を試みたようですが結局できませんでした。動力をゼンマイにすることのメリットのひとつにデザインの自由度があります。内蔵電池を使う限りモーターやICの消費電力を抑えなければならないので、針の大きさや太さに制限があります。しかし、ゼンマイを動力とするスプリングドライブは、視認性のいい立体的で太い針を使うことができるなど、デザインの自由度が飛躍的に高まります。つまり機械的な美しさをデザインに反映できるのです。スイスの機械時計はクオーツに比べれば非常に劣るわけですが、ゼンマイの力だけで動いているというところが評価されているという部分があります。スプリングドライブは精度もおろそかにせず、人間の感性的な部分がデザインに反映されており、実用と物としての美しさを高い次元で両立させています。例えば、スイスのカルティエなんかは装飾の世界が入ってます。あれに対抗するのはなかなか難しい。で、我々としてはセイコーの持っているオンリーワン技術、信頼性、機能性で差別化していこうと思っています。「革新と洗練」でスイス勢の牙城に正面勝負しようというわけです。

Q:セイコーの世界戦略における中国市場の位置づけはどのようなものですか。

服部:やはり人口が12億人もある国ですし、最重要拠点であることはいうまでもありません。1994年から気持ちも新たに再び中国市場に打って出たわけですが、中国ではスイスブランドがとても力があります。これに対抗するため、価格は多少高くとも日本製ならではの、セイコーならではの付加価値をつけた時計で勝負していく戦略をとりました。今の中国はインフラや生活環境が格段に向上しており、富裕層が増えてきていることから、時計に関しても中・高価格帯のものがよく売れています。スプリングドライブを搭載した実用時計の最高峰「グランドセイコー(Grand Seiko)」、ドレスウォッチ、おしゃれ系の「クレドール(CREDOR)」そしてスポーツ系の「ガランテ(GARANTE)」を中心に、技術力と信頼性を知ってもらい浸透させることでセイコーブランドの価値を引き上げていく戦略です。


Q:服部社長が中国に行かれて一番印象に残っていることと、若い中国人経営者へアドバイスやメッセージがあればお聞かせ下さい。

服部:3年前、日本時計協会と中国時計協会による日中時計協会交流会が西安で開かれたとき、世界遺産でもある兵馬俑を見学したのですが、あれには圧倒されました。秦の始皇帝を永遠に守るために副葬された東西約210m、南北約60mにズラリと整列する傭の軍隊はまさに圧巻でしたね。いまだに強烈な印象が残ってます。若い経営者の方々にいいたいのは、国際的視野を持って欲しいということですね。世界を相手にビジネスをしていく上で大事なのは相手の立場に立つということです。そのためにもその国の文化、歴史を知っておく必要があります。ビジネスといえど最終的には人間と人間の付き合いに集約されるわけですから、相手の立場に立って考えるということはとても大切なことだと思います。

編集者初の国産ウォッチ、世界初のクオーツウォッチ、世界で始めて1/100秒計測を実現したアナログ式クロノグラフウォッチなど、同社には初のつく物が多い。30年近くの歳月をかけて作り上げたスプリングドライブは、日本が世界に誇る革新的な機構であり、セイコーの時計技術の粋ともいえる。こうしたチャレンジ精神があるかぎり、つねに私たちの心を弾ませてくれる時計を提供してくれるに違いない。

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